退屈な話

「書かないことは、なかったこと」 せっかくパソコン持ってるので日記を書きます。

『四月の永い夢』を見た話: 書を持ち僕は旅に出る

いい映画を観れたなあと思ったので、久しぶりに映画の感想を書きます。

※以下には『四月の永い夢』のネタバレが含まれます。困る方は本編をご覧になってまた来てください。

 

あらすじ

3年前に恋人を喪った滝本初海は、それ以前に勤めていた教師を辞め、そば屋でアルバイトをし、休日は音楽を聴いたりラジオを聴いたりという日々を送っていた。そこに、元恋人のパソコンから見つかったという初海宛の手紙が彼の両親から送られてきたことで、初海の日々は大きく変化する。

元教え子でジャズシンガーを目指す楓や、染物職人の見習いで初海に想いを寄せる藤太郎との出会いを経て、初海は元恋人の実家へ行く。母親にある秘密を打ち明け、最後にラジオから藤太郎のメッセージが流れてきて物語は終わる。

 

感想

音楽や台詞回し、優しいテンポが心地いいし、何より90分程度の映画なので気持ちよく観ることができた。主演の朝倉あきさんの困ったような、はにかんだ笑顔が素敵で、初海という女性の煮え切らない微妙さをよく表現できていたと思う。物語の見所は、それまで「恋人を突然喪った結果として、人生に迷っている女性」として描かれてきた初海が元恋人の母親にある秘密を打ち明けるところだろう。

その秘密とは、恋人だった健太郎とは、彼が死ぬ4ヶ月前にすでに別れていた、というものである。初海はこの“秘密”を誰にも言えないまま3年間を過ごしてきたのである。彼女のそれまでの行動(教師に戻ることへのためらい、藤太郎の告白への対応など)の説明が、ここで一気につくような気がして、謎解きとしてすごく気持ちよかった。以下で、私なりの解釈を述べる。

 

書を持ち僕は旅に出る

詰まる所、物語が始まるまでの3年間の初海の優柔不断さは、元恋人の死に端を発したものではなかったのだ。彼女は「恋人を喪った可哀想な女性」というレッテルを利用し、ボンヤリ生きてみたのだろうと思う。それは、ある意味で周りの期待もあったのだろう。

冒頭、初海が勤めていたそば屋が閉店する場面で「居心地良かったんだけどな」という初海にたいして、「そういうところだぞ」とそば屋のおばちゃんが叱咤するが、このおばちゃんは初海のそういう“狡さ”を見抜いていたのだろう。そば屋を閉めるという決断の一端には、初海にまっすぐ人生を歩いて欲しいという願いもあるように思う。

そして、最後に健太郎に手紙を返す(健太郎の両親に手紙を託す)のだが、このことでもって、健太郎への依存関係をやめ、彼女は自身の生を生きていくのだろう。そしてそれは、全ての思い出を捨ててしまうことではない。健太郎からのたくさんの手紙(=思い出)を抱えて、それでも一人の人間として歩いていくのである。それが、本作の挿入歌でもある「書を持ち僕は旅に出る」という曲のタイトルでも表現されていると思う。ラスト、藤太郎からのメッセージを聴いて、おそらく愛想笑いでない笑顔がこぼれ出て終わるが、これは本当に素敵なエンディングだなあと思った。藤太郎と付き合うかもしれないし、付き合っても別れるかもしれない。でも初海は自分の人生としてそれを引き受け、強く生きていくだろうと思った。素敵な映画だなあ。